潮の香りとウミネコの声が響く、エミノニュの賑やかな通り。私の数歩前を歩いていた一人の女性が、ふとした拍子に手書きのメモを落としました。拾い上げると、そこには走り書きの予定表のような、あるいは大切な誰かへの伝言のような文字が躍っています。
「すみません、落としましたよ」と声をかけると、彼女は一瞬、怪訝そうな面持ちを見せたものの、パッと花が咲いたような笑顔で「ありがとう!」と受け取ってくれました。潮の匂いが残るなか、彼女の軽やかな足取りを見送りながら、ふとこんな言葉が胸に響きました。
「すべての人は善人か悪人かではなく、正しいか正しくないかではなく、その中間である。」 ――アリストテレス
日常を黄金に
私たちは日々、無意識のうちに自分や他人を「正しいか、そうでないか」という白黒はっきりした枠に当てはめようとしてしまいます。仕事でミスをした自分を責めたり、誰かの振る舞いに心をざわつかせたり。でも、本当は誰もがその不完全な「中間」をたゆたう存在なのですよ。
ふと顔を上げて、ボスポラス海峡の向こう側を眺めてみてください。 人間がどれほど「善悪」や「正しさ」の狭間で揺れ動こうとも、海はただ深く青く、空は境界なく広がり、太陽はすべてを等しく照らしています。その圧倒的な自然のおおらかさの前では、私たちの抱える小さな不完全さなど、豊かな「中間」の一部として優しく溶けていってしまいます。
自然の大きさに目線を移し、その広い懐に心を預けてみる。すると、自分を縛っていた「正しさ」の鎖がふわりと解け、今日という一日がもっと自由で、愛おしいものに感じられるはずです。ボスポラスを渡る風が、あなたの心にある「海原」の豊かさを、優しく包み込んでくれますように。



